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棚田学会
Rice Terrace Research Association

                  棚田学会賞 

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棚田学会賞
第12回石井進記念棚田学会賞(平成27年度)
1.授賞者
(1)新井区(京都府与謝郡伊根町字新井)、伊根と新井の千枚田を愛する会(大阪府大東市大野)
(2)鬼木棚田協議会(長崎県東彼杵郡波佐見町鬼木郷)
(3)入郷棚田保全協議会(栃木県芳賀郡茂木町大字入郷)

2.業績名及び授賞理由
(1)新井区、伊根と新井の千枚田を愛する会
業績名:過疎化・高齢化により一度は失われた日本の原風景「棚田」を、都市住民と地元住民が協同で復活させ、守り続ける
授賞理由:かつては約800枚あったともされる新井(にい)の棚田は、過疎・高齢化、有害鳥獣による被害、そして後継者不足により荒廃が進み、ついには耕作枚数がゼロとなった。大阪府大東市で米穀販売業を営む「伊根と新井の千枚田を愛する会」の代表者は、子供の頃に見た当地の棚田が荒廃していく姿を忍びなく思い、平成10年に同業者に呼びかけ、地元の新井集落と協力しながら、最初の3年間は伊根町からの補助も得て棚田の復活に取り組んだ。
 その後活動を拡充し、都市農村交流活動を加えた棚田保全活動を目的として「伊根と新井の千枚田を愛する会」を平成12年に設立した。同会は、「伊根町新井棚田応援団会員」を年間1口10,000円で募り、棚田での農作業体験を通じた農業や農山村への理解の増進、棚田の保全と地域の活性化に取り組み、その結果当初30戸であった会員数は現在、京阪神の住民を中心に51戸に増加し、28枚の棚田が耕作されている。
 一方、地元の新井区では、当初は有志のみが参加する協力体制であったが、次第に新井区全体での取り組みとなり、現在では新井区の役職に4名の棚田耕作担当者が配置されて棚田の耕作・管理を担い、棚田応援団会員を迎えた田植え・稲刈り体験時には新井区民全員が参加する協力体制となっている。
 都市住民側が引っ張る形のユニークな本取組は、町報での記事、京都府丹後農業研究所主催の丹後・棚田フォーラムでの報告などを通じて紹介され、地元が誇れる風土を活かした日本で最も美しい町を目指す町民の意識改革にも貢献し、集客観光産業など地場産業の振興に寄与している。
 このように、推薦された2団体は府県を跨いだ協同の取組により新井棚田の保全と手づくりの都市農村交流に長年にわたり大きく貢献しており、その社会的意義は極めて高く、棚田学会の理念とも一致するものであり、棚田学会賞を授賞するに相応しいものと認められる。

(2)鬼木棚田協議会
業績名:「鬼木棚田まつり」の成功を契機とする長崎県波佐見町の活性化
授賞理由:当地区の棚田の開発起源は平安〜室町時代とされ、明治時代前期にほぼ現在の姿となり、最盛期には約700枚の棚田が耕作されていたとされている。以来、波佐見町は農業と窯業を主産業としてきたが、高度経済成長期頃から農業の著しい衰退が始まり、ついには「ここは何も無い所」という意識が地元民に深まっていった。
 こうしたなか、平成11年に鬼木棚田が「日本の棚田百選」に認定されたことを契機にその翌年、中山間地域等直接支払制度に対応する集落協定組織として鬼木棚田協議会が設立された。同会はまず、棚田の景観を損なう荒廃地の笹竹の伐採、崩壊畦畔の修復、休耕田の草刈り、整地、蕎麦や大豆の播種による景観の回復に取り組んだ。その結果、町外から棚田を訪れる旅行者が増えたため、同年11月に枝豆の収穫祭を「鬼木棚田まつり」と称して実施し、200名の来場者を得た。
 この成果に力を得て、翌年は案山子コンテストなどプログラムの充実を図った結果、来場者は約2,000名に激増し、その後も増加して平成21年以降は毎年6,000名以上を数えている。近年では、まつり後に案山子を2週間展示する間の来場者が20,000名、農産物直売所の売り上げが300万円に達し、同直売所の年間売り上げ約1,500万円は集落の大きな収入源になっている。
 この「鬼木棚田まつり」の盛況が導火線となり、波佐見町は「きなっせ100万人」を施策として推進し、農業や窯業の体験型観光を中心とした町外からの訪問客数は平成26年に85万人に達した。また、鬼木棚田協議会は平成15年に鬼木棚田を廻るウォーキングをJR有田駅と共催したが、町内の各団体やJR九州と連携してこれを発展させ、平成18年から「JR波佐見ウォーキング」を実施し、毎年1,000名以上の参加者を得ている。さらに、同協議会は長崎県内の「百選の棚田」5カ所に呼びかけ、平成14年から持ち回りで「長崎県棚田保全代表者会議」を開催しており、第1、7、13回のホストを務めた。近年同会議には、長崎県内の「だんだん畑十選」地区からも代表者が参加し、県行政担当者を交えた意見交換・議論の場となっている。
 このように、同協議会は「鬼木棚田まつり」の成功を契機に波佐見町、さらには長崎県全域の棚田の保全と地域の活性化に大きなインパクトを与えてきている。その取組は棚田発の活性化の成功例として参考となるもので、その社会的意義は極めて高く、棚田学会の理念とも一致するものであり、棚田学会賞を授賞するに相応しいものと認められる。

(3)入郷棚田保全協議会
業績名:“おもてなしをしない”を基本とした都市農村交流の実践
授賞理由:入郷石畑(いりごういしばたけ)は、古文書によれば1561年当時に戸数22戸、人口155人であったとの記録が残っている。本地区の棚田の規模は比較的大きく、4.9haにわたり傾斜度が約1/8の棚田が広がっているが、高齢化による労働力不足のため耕作放棄地が増えていた。このため、平成11年に入郷石畑棚田が「日本の棚田百選」に認定されたことを契機に、その翌年に地元の農家7名が集い、美しい棚田(187枚)の再生と保全を目指して入郷棚田保全協議会を結成した。
 同年、耕作放棄地の草刈り等のボランティア募集に対して東京などから72名が参加したことから、平成13年からは年3回ボランティアを募集し、耕作放棄地の復旧と併せて、古代米や酒米の田植え、ハナショウブの定植なども実施し、さらに平成14年からは栃木県内初の棚田オーナー制度を開始した。
 山間部に位置し中央部に木須川の渓谷が配された入郷石畑棚田とその近辺は生き物の宝庫で、ハッチョウトンボ、蛍、各種の蝶類やその捕食者が観察される。そうした豊かな自然の下で気持ちの良い汗をかいて頂くこと自体をおもてなしと捉え、地元農家は過剰サービスを抑えて農作業にあまり手を出さず指導のみとし、クロ掛けから脱穀までオーナーにすべてやってもらうスタイルを、14年目を迎えた現在(オーナー数51組、60a)も貫いている。
 このため、オーナー同士の仲が良く、オーナー自らが企画するイベントも開催し、これら入郷石畑の棚田の魅力を会報誌「棚田ニュース」や、ホームページ「棚田通信」を通じて内外に発信している。このオーナー制度の成功により、町内の他集落が触発され、そば、梅、しいたけなどのオーナー制度が生まれるなど、町内はもとより栃木県の先進的事例となっている。
 さらに、酒米五百万石を作付けして清酒「もてぎ棚田の雫」を委託製造販売(2003年〜2012年)し、2007年には第13回全国棚田(千枚田)サミットを開催するなど、地元が無理をしないオーナー制度を基礎とした持続的な取組は、地形は厳しいが自然豊かな山間部の棚田保全団体の参考となるもので、その社会的意義は極めて高く、棚田学会の理念とも一致するものであり、棚田学会賞を授賞するに相応しいものと認められる。

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